爆発回想

 大学のころ、2階建てのアパートに住んでいた。周囲は畑に取り囲まれていて、憧れの都会ぐらしというわけではなかったが、図書館と美術館、それから大学が自転車圏内で、しかもフローリングだったので、その軽量鉄骨のアパートは私のお気に入りだった。

 とはいえ、そこに思い出は特にない。布団にこもっては DynaBook でインターネットし、眠くなったら眠り、それに飽きたら図書館に行く、という虫みたいな日々を淡々と過ごしていた。

 最初はそれがたのしかったんだけども、3年ほどコンビニ(アイショップ)の店員さんとしか会話しない生活をしてるとさすがに精神が参ってしまった。

 たまに勇気を出してサークルに入ってみたりだとか(すぐにやめた)テレアポのバイトしてみたりだとか(これもすぐにやめた)やってはみたんだけど特に状況は改善しなかった。

 普通の大学生が恋愛したり飲み会したりしてるときに、1人自己変革を試みては失敗するという孤独な戦いに敗退し続けてたわけなんだけども、そういう生活をしてるとやっぱ感覚が良くも悪くも鋭敏になってしまう。

 だから、アパートのごみ捨て場に謎のダンボール箱が置いてあるのにもすぐ気づいた。

 アパートの住民たちはみなルールを遵守するタイプで、ダンボールといえば平らに畳んでビニール紐で縛るっていうのが常だった。それにも関わらず、そのダンボールは箱のままポン、と置かれていた。大きさは30☓45センチくらいだったような気がする。

 ちょうどアメリカでのテロが話題になっていた時期だったので、私はそれがちょっと怖かった。なにか変なものが入ってたらどうしよう、と思ったのだ。触る気はしなかったので、毎日出かけるたびに目視でそれをチェックしていた。ダンボール箱はなにごともなく、1週間もしないうちに撤去された。

 箱がなくなった日は、雨が降っていたので、濡れてグシャグシャになってしまった箱を、大家さんが撤去してくれたのかもしれない。

 その箱が消えた日、私は、今はもう消してしまったブログに「爆死の可能性が減った」と書いた。いろんな意味で引きこもり中に爆死してるんだけど、物理的に死ななくて良かったなぁと、今の私は思う。