その後はよしなに。

田中と出会ったのは深夜だったと思う。

当時私は、始まったばかりのmstdn.jpにドハマリして、寝る間を惜しんで「膣!」と連投していた。そんなあるとき、知らない人物から無言のリプライが届いた。

 

リプライの送り主のホームには、ろくな情報がなかった。「田中」というアカウント名と、わざと無個性に書かれたような男性のアイコン。そしてbioには「アイコンくらいの年齢」だけ。しかもjpでもpawooでもないマイナーインスタンスだった。

即座に「なに?」と返事をしても、返ってくるのは無言リプライのみで、数回「だれですか」「」「なんですか」「」を繰り返すうちに、さすがの私も怖くなった。

 

私の様子がおかしいのに温泉とイツカミキが気づいて、「メイ層どうした」と集まってきた。相手の人はしばらく無言リプライを続けたが、3人でギャーギャーやってるうちに、彼からの返事が届くようになった。

 

彼はとあるアカウントとやり取りをしているようだった。何らかの理由で私にもリプを送ってしまったのだろう。

私達は口々に「あなたは誰ですか」と尋ねた。しかし彼は「田中は、田中です」というなんの意味もないメッセージを壊れたロボットのように繰り返した。我々はますます彼に恐怖を抱くようになった。

 

私は裏で、イツカミキにDMを送った。(田中に敵意を察知させないため)

「なにこいつ、やばい奴じゃね??」

「狂気を感じる....」

「アイスピックで刺してきたあと、へぇ、温かいんですねっていいそう」

 

よくよく話すと、彼は無表情でアイスピックを振り回すようなタイプではない、一般の青年ということがわかった。

そして、田中は普通にディスコードで話したり、マストドンでやりとりできる存在になっていった。

 

田中がタイムラインにいる間いろいろなことが起こった。

急に田中がログインできなくなって、別のアカウントで現れたり、さらにはそれが偽りだと私が主張するも全然偽りじゃなくて、あまりのショックのため垢消しを図ったり、たくさん思い出がある。「田中です」「よしなに」「アイスピック」がちょっとしたミームみたいになったりもした。

 

田中が現れなくなってだいぶ月日がたってしまった。ちなみに、温泉に至ってはけっこう早い段階でブロックされ、今では行方もわからない。