雪を見たい

雪と縁遠い人生を生きている。特にここ数年は

温暖な街に住んでおり、今年は暖房なしで事足りている。夫に至ってはさっきからずっと半袖で居眠りしている。そろそろ12月も終わると言うのに。

そんなわけで雪が恋しい。北海道のニュースを見ては、ああ北海道に行きたいと思う。交通事故について熱心に話すリポーターの背景で、深々と積もる雪に触れたい。

最後に雪に触れたのは2014年2月14日だった。その日は記録的な大雪の日で、聞いた話によると過去最大の降雪量を記録した地区も多かったらしい。当時住んでいた山奥の鄙びた村でも、十数年ぶりの大雪ということで、街中が静まり返っていた。車が通らないので皆出勤できず、ありとあらゆる店が開店できなかったのだ。

一方私はというと、普段なら晴れていても出社を渋るのに、このときばかりは喜び勇んで徒歩出社した。確か「臨時休業により休んでも良い」と連絡はもらっていたような気もする。当時付き合っていた夫に買ってもらったばかりの登山靴を履いて(GORE-TEXが仕込まれていた!)、世界が終わった後みたいに人のいない街を歩くのは大変楽しかった。

すでに8時をまわっており、普段だったらお年寄りが散歩し終わったはずの坂道にも足跡がほとんどついていなかった。平均で20センチは積もっていただろうか?歩くたびについていく自分の足跡を、振り返り振り返りしてはニヤニヤ笑いながら歩いた。

その日はまるで仕事にならず、一日中雪の片付けをしていた。いつもは気難しい先輩も、頬を赤くしてときには「ワハハ」と笑いながら駐車場に積もった雪を片付けていた。当時の事業所には嫌な思い出が多く、異動後も度々悲しい気持ちとともに記憶がよみがえる。その中にあって、数少ない楽しい思い出である。

さて、記録によると、その日私と夫は入籍届を出している。提出した記憶はあるにはあるのだが、ちゃんと出勤したはずなのに、なんで提出できたんだかよく覚えていない。午後休とったんだっけ。どうも記憶の辻褄が合わない。

もしかしたら、我々の婚姻自体夢なのかもしれない。こちらは雪のように消えてしまわなければいいのだが。