ギョレメの気球

 トルコには見るべきものが山ほどあるが、やはり第一はカッパドキアだろう。

 カッパドキアとは、(詳しくは私もよく知らないが)トルコにあるアナトリア高原あたりの地域をいう。ここには薄ベージュ色のザラザラした巨大な石がキノコのように林立している。石をよく見るとあちこちに窓が開いている。一部は崩れている。一部はしっかり残っている。この、トルコ随一の世界遺産は、そのへんのチマチマした遺跡と違って、本当に視界いっぱいに広がっている。

 私達夫婦は「奇石群にアクセスがいいらしい」という曖昧な理由でギョレメに宿をとったが、実際はアクセスがいいどころか、奇石群の中に村があるといった感じだった。

 トルコがはじめての海外旅行で、しかも国内旅行の経験も数えるほどしかなかった私は、世の中にこんなスケールの奇景があるとは思いもしなかったので、心から仰天した。めちゃくちゃ広いのである。まじで。

 このカッパドキアには外せないホットなアクティビティがある。気球である。朝日が登るタイミングで、気球を飛ばし、壮大な景色を空から眺めようということで、大人気らしい。当然私達もギョレメ最終日にツアーを予約した。

 ギョレメについた初日の朝、5時頃から私達は起き出した。近所にあるという(インターネットで調べた)絶景の朝日スポットに向かうためである。最終日には自分たちが乗るはずの気球を、地上から見るつもりだった。

 絶景スポットには、あっけないほど簡単に行けた。宿から1キロくらいだったように思う。周囲は真っ暗で、観光客もまばらだった。草原の中、最初は二人でコソコソと話していたのだが、しばらくするとそれにも飽きて、それぞれ勝手にウロウロしはじめた。そうこうしているうちに、空が白んできて、気球も少しずつ飛び始めた。

 朝日は奇石群をピンクに染めて、そこに影を落としながらゆっくりと気球が飛んでいった。朝日は、日本で見る朝日と同じ色だったが、照らされている景色は想像したことさえないものだった。

 適当に行き先を決めた旅行だったが、この景色を見ることができて本当に良かったと思う。ただ、心残りなのは最終日に天候の都合で気球に乗れなかったということだ。喜びを後回しにするのは本当に良くない。